国際ヨガ協会

エッセイ2016年度

ヨガエッセイコンクール 2016年度 入賞作

2016年度エッセイ部門 最優秀賞
きょうのお月様

北群馬支部 桑原早弥香さん


 「きょうのお月様、どうだった?」
 先生からこう聞かれたのは、突然でした。でも答えることができませんでした。教室までの道中、月が出ていたかどうかさえ覚えていなかったからです。

 当時の私は、初めての妊娠が流産となり、その喪失感を埋めるように仕事を詰め込んでいく毎日でした。そして身体を整えようと、左右差の無いキレイなポーズにすることに夢中になっていきました。その時はそれが自分のためになると思い込んでいたからです。ですが、焦れば焦るほど身体は力み、硬くなり、痛みを伴い、あんなに楽しく気持ちのよかったヨガが苦しいものになっていきました。仕事もスムーズに進まず、何をやってもうまくできない自分が心底嫌いになりました。朝が来なければいいのにとさえ思い始めていました。先生から月の事を聞かれたのはそんな日が続いた時のことでした。

 その教室からの帰り道、見上げた夜空にはキレイな月が昇っていました。自然と涙が出ました。自分の身体と心が、もう限界なんだと、ようやくその時気づいたのです。必死に握りしめていたものをふっと手放せた感覚でした。
 同時に、こんな私を支えてくれる人達を忘れかけてしまっていたことにも気づきました。そんな人達に誠実でありたい。心からの笑顔で「ありがとう」と伝えたい。そのためには、まず自分をまるごと知ってあげることから始めようと思いました。
 今の自分の身体は、今日これまでのありのままの自分を映し出しています。心もきっと同じなのだと思います。ヨガをおこなっていくにつれ、リラックスや癒しだけではなく、自分自身を律していくことの大切さも教わりました。

 今、私の隣には歩き始めた娘がいます。首が座り、コブラのポーズ、回転のポーズは寝返り、ハイハイで猫のポーズ。掴まり立ちに挑む姿はまるでシルシアサナのようでした。アサナの完成ポーズばかりを急ぐのではなく、そこまでの過程を大切にする。味わっていく...。きっと私自身も、こうしてひとつ一つを丁寧に行うことが必要だったのです。

 「24時間、ヨガタイム!」
先生の口癖でもあり、産後、私も心の中で呟き続け、救われてきた言葉です。アサナはヨガ八支則の中の一つ。アサナができない時でもヨガはできるのです。
 月明かりの下、子供の寝息を聞きながら静かに呼吸をする。太陽の光降り注ぐ中、木陰で家族と思いっきり笑いあう。そんな時間さえ私にとってのかけがえのないヨガタイムなのです。

 きょうの月はどうだった? 見上げた空の色、頬をなでた風のにおいは? ふと立ち止まり、そう自分に問いかけます。移り変わる自然、めぐる季節のように、物事も常に変化しています。そんな風に自分も変わり続けているのだと思います。
 これまで出会った人、起きたこと、どれひとつ欠けても今の自分や想いには辿り着けなかった。そう思うと心が温かくなり、感謝の気持ちでいっぱいになります。

 ヨガと出会って6年。目指すところはまだまだ遥か遠いけれど、少しずつでも近付けるよう、自分の足でしっかりとヨガの道を踏みしめていこうと思うのです。


2016年度自由表現部門 最優秀賞
ぎっくり知らず

広島八本松南支部 若林いわみさん






2016年度エッセイ部門 優秀賞
先生の「作品」

大分西支部 清原勝代さん


 アサナの時、安部先生はおっしゃいました。
 「みんなきれいよう、一人一人が私の作り上げる作品。美しい姿を誰かに見てもらいたいわあ。」  これは、半年ほど前から私が温め続けている安部先生のとっさの一言です。そんなお気持ちでご指導してくださっていた…。すべてが凝縮されている、と 感動した瞬間でした。
 四年前、私はいろいろな出来事が重なり、日に何度も襲われる心室がトクトクと走るような感覚、片耳が水中にいるようにおおわれた不快さ、抜け毛、ギラギラとした何かが見え続けたり、翌朝生きて目が覚めるだろうかと心配するほどの日々。いくつの病院を回ればいいの? 以前アレルギー症状の訴えを理解してくれた耳鼻科の医師の診断は、「自律神経失調だからね。うつ病ではない」でした。すべての不調はその一点から来ていると聞かされ驚くとともに,何か体を動かしつつ心を変化させるものはないかと、藁にもすがる思いで飛び込んだのがヨガ教室。あの日があって今の、感謝の塊の自分がいます。
 先生のご指導で、骨盤や骨のゆがみ、心や目など悪い場所を次々と指摘されました。先生に勧められ並行して通った整骨では、産後のぎっくり腰からの三十数年来のジクジクした腰痛がすっかり治り、信じられない思いです。これも体の異常ポイントを自覚させてもらえたおかげでしょう。
 今でも注意を受けてばかりではありますが、少しずつ体のつながりが見えてきて楽しみが増すばかりです。食べ物の良し悪し、体のオン・オフの使い分けの大切さ、腹式呼吸、視線。心に浮かぶわだかまりは、放り出せえ! なかなか身につきませんが、そこに意識を持っていけるありがたさ。
 先日は初めての実践会。おそれ多くも自律神経の相談を聞いていただいた谷村総師範からは、「内臓は悪い所はないよ。ストレッチの時、あと一押しを心掛けてね」と、強い視線で、なのにさりげなく答えをいただきました。それ以来、痛い、ここまで!と思った“その後のひと頑張り”を意識しています。曲げ、伸ばし、反らし、開き…。三年前は先輩方の柔らかさが信じられない思いでしたが、いつのまにか格段に可動域が拡がった自分を発見し、ワクワク嬉しい限りです。体調が変だと思えば、のどを触り、耳を押し、足をもみ。気が付けばこれは実践なのですね。
 その間、夫が予期せぬ脳梗塞で倒れましたが、医者も想定外というほどに回復しました。二人での平穏無事のありがたさ。年齢を重ね、経験を重ねることもまた力だと思える、今のしたたかさ。
 あの日、うつ病ではないよと念を押してくださった医師、それに、自分を外側から眺めているような、深く広いヨガ。豊かな経験と知識の安部先生。このご縁を強力な助っ人として、一歩後退・二歩前進としたいものです。
 …書き終えて、ふと手元の「inner move」を手に取りました。驚いたことにA.T.のページで、先ほどまでおぼろに感じ、つかめないでもどかしかったことを、的確な言葉で表現してくださっていました。これまで目を通していたつもりの冊子が、急にストンと胸に落ちたのです。思えばほんの帰りの立ち話で、先生に「それを書いてみないか」と誘われた偶然の出来事。私はあの、忘れられない先生の言葉への感謝を伝えたい、それだけがきっかけのはずでした。終えてみれば何と理解度が格段に違っています。『ヨガの不思議さの元』を追求したくなっています。十数冊となった『inner move』を眺めやり、宝の山だ!と興奮している、四年目にして未だ初心者の私です。


2016年度自由表現部門 優秀賞
山頂にて

大分西支部 小野貴明さん





2016年度自由表現部門 優秀賞

長崎中央支部 長野栄子さん


ある日、誘われるまま「ヨガて何?」と聞きながら始め、なんとなく通いはじめて1カ月で生理痛が消え、心まで明るくなりました。ヨガの日はカレーライスと決めて、あれからうん十年。万年落第生ですが、先生のお言葉にこころ魅かれて、これからもできる限り通いたいと思っています。
  一) なほ生くる ヨガの絆や 麦の秋
  二) 腹筋を 百回と決め 西日中
  三) 吸って吐く なほ吸って吐く 蝉時雨
  四) 人の世の 端に生きゆき 氷菓舐む

印刷用ページ