「スロー・エクササイズ」としてのヨガ

『現代社会におけるゆとりのあるライフスタイルの提案〜
ファストボディに対するナチュラルボディの提唱』
より抄録
大成麻紀子(横浜国立大学・教育人間科学部・国際共生社会課程)
2004年度卒業論文

―目次―

  • 第1章 研究目的
  • 第2章 研究方法と結果
    • 1.研究方法
      • (1)調査対象
      • (2)調査期間
      • (3)調査方法
    • 2.結果
      • (1)年齢とエクササイズの関係
      • (2)エクササイズの効果について
      • (3)POMSテストによるスローエクササイズの効果について
  • 第3章 考察
    • 1.スロー・エクササイズの有効性について
    • 2.ヨガの具体的有効性について

第1章 研究目的

 「ファスト・ボディ(fast body)」とは『観念により硬直して<ゆるみ>を失っている状態にある身体』のことをいう。その「ファスト・ボディ」に対する言葉として、私は「スロー・ライフ(slow life)」を身体に置き換えた「ナチュラル・ボディ(natural body)」という概念を考え、『忙しさの中でも独自の身体リズムを持ち、心のバランスを保ちながら本来あるべき姿を取り戻した自然体の身体』と定義づけた。

 私は、心豊かに生活するための理想的な身体はこの「ナチュラル・ボディ」であると考える。「ナチュラル・ボディ」を取り戻すために、最近テレビや雑誌などのメディアだけでなく、現にカルチャースクールの中でも注目が集まっているのが、本研究の中心となる「スロー・エクササイズ(slow exercise)」である。私はこの研究をするにあたって、スロー・エクササイズを『身体を鍛えるためだけの単なるエクササイズとは異なり、息が上がるような激しさとは相反するゆっくりした動きで、癒しの効果も加えられたエクササイズ』と定義した。

 私がこの研究を通してもっとも解明したいことは、現代社会において慌しくファストな生活を余儀なくされている人々と、スロー・エクササイズに魅了されている人々の間に何らかの関係性があるのかということである。

 スロー・エクササイズは最近注目されはじめた分野であり、このカテゴリーでの先行研究はほとんどなされていない。そこで本研究では、現在スロー・エクササイズを行っている人々のライフスタイルの実態と、スロー・エクササイズに対する目的意識や心理傾向を調査し、人々がスロー・エクササイズに魅了される原因を明らかにしていくこととした。それとともに、スロー・エクササイズは忙しい毎日を送る現代人にとって、はけ口となる有効性を持ち合わせているのかを検討することとした。そして、今後のエクササイズに求められる要素を明らかにするとともに、現代を生きる人々に、心豊かに生活する新しいライフスタイルを提案することを目的とする。

第2章 研究方法と結果

1.研究方法

(1)調査対象

 首都圏(ここでは東京都・神奈川県とする)で何らかの身体を使ったエクササイズを行っている人を対象とした。年齢はそれぞれのエクササイズの特性にもつながると考え、制限は設けないこととした。このうち、アンケートに回答のあった233人を分析対象とした。年齢構成は18歳以下2名(構成比1%)、19〜22歳22名(9%)、23〜29歳36名(15%)、30代48名(21%)、40代22名(9%)、50代55名(24%)、60代以上50名(21%)となった。

(2)調査期間

 2004年11月〜12月

(3)調査方法

 独自に作成した質問紙に調査の趣旨説明書を加えて同封し、各スタジオの代表者(指導者)に郵送し、同意の得られたスタジオから回答が得られた。また、私の個人的なつながりにより、直接スタジオに出向き調査を行った例もある。(有効回答率55.34%)。

2.結果

(1) 年齢とエクササイズの関係

 年齢が上がるにつれ、スロー・エクササイズをしている割合が増えている。
 ヨガをしている人は50代・60代以上で44%と約半数を占めている(図1)。
 逆に、ハードに位置付けているジャズダンスでは20代までの若者で過半数を占めている(図2)。

図1
ヨガをしている人 年齢層(図1)
図2
ジャズダンスをしている人 年齢層(図2)

(2)エクササイズの効果について

 エクササイズをしている際に感じている効果を被験者の主観で答えてもらった。
 スロー・エクササイズに関しては、「リラックス」「柔軟性の向上」「疲れがとれる」などが目立っている(図3)。

図3
ヨガ 感じている効果(図3)
  1. リラックス:18%
  2. ストレス解消:12%
  3. 柔軟性の向上:25%
  4. 疲れがとれる:20%
  5. 楽しい:11%
  6. 姿勢の改善14%

(3)POMSテストによるスローエクササイズの効果について

 POMS(Profile Of Mood States)を用いて、ヨガを行う前と後との気分の変化を比較した(図4)。

fig2005_4.gif
*=p<0.05、**=p<0.01、***=p<0.001
図4 ヨガ前後の気分の変化(n=22)
表1 ヨガ前後の気分の変化(得点)
 TDAVFC
5.777.816.6816.16.683.72
1.814.813.1817.24.631.63
表2 前後の平均値の差の検定(p値)
TDAVFC
0.00050.0120.0060.0810.0670.009
[1]緊張<T>
ヨガを行った後に得点が低下した。緊張に関しては、p<0.001で有意差がみられた。このような高い有意差がみられたことから、ヨガを行った後の緊張感の緩和(リラックス)効果は高いということがいえる。
[2] 抑うつ<D>
ヨガを行った後に得点が低下した。抑うつに関しては、p<0.05で有意差がみられた。よって、ヨガを行った後の抑うつ感の軽減効果が得られるということがいえる。
[3] 怒り<A>
ヨガを行った後に得点が低下した。怒りに関しては、 p<0.01で有意差がみられた。よって、ヨガを行ったことにより心が穏やかな気分になるということがいえる。
[4] 活動性<V>
ヨガを行った後に得点が上昇した。活動性に関しては、ヨガを行った前後の比較で優位な差は認められなかった。
[5] 疲れ<F>
ヨガを行った後に得点が低下した。疲れに関しては、ヨガを行った前後の比較で優位な差は認められなかった。
[6] 情緒混乱<C>
ヨガを行った後に得点が低下した。情緒混乱に関しては、p<0.01で有意差がみられた。よって、ヨガを行ったことにより精神が安定する効果が得られるということがいえる。

第3章 考察

1.スロー・エクササイズの有効性について

 本研究では、スロー・エクササイズを『身体を鍛えるためだけの単なるエクササイズとは異なり、息が上がるような激しさとは相反するゆっくりした動きで、癒しの効果も加えられたエクササイズ』と定義した上で、スロー・エクササイズとゆとりの関係性の有無を調べ、現代社会においてのスロー・エクササイズの有効性を検討し、それを含めた新しいライフスタイルを提案することを試みた。

 まず、年齢との関係についてだが、年齢が上がるごとにスロー・エクササイズが受け入れられていることがわかった。

 中高年層に受け入れられる理由としては、始めたきっかけをみると「運動不足」や「体を鍛える」などの今までの自分の体を見つめ直すというような理由から入っている。これはスロー・エクササイズの特徴として挙げられている、「自分自身をみつめること」にあてはまると考えられ、また、他の特徴である「スローな動きで行うこと」「呼吸を大切にすること」なども、リズミカルな動きに苦手意識がある中高年層に受け入れられる要因となっているのだろう。

次に、スロー・エクササイズをして主観的に感じている効果は、「リラックス」「柔軟性の向上」「疲れがとれる」などが共通項目として挙がった。これは、他のエクササイズに比べて、ゆっくりとした動きやテンポに追われる感じがないことから、感じられる効果だと思われる。

2.ヨガの具体的有効性について

 とくにヨガについてPOMSを用いて実際に感じている効果を調べてみたところ、ヨガを行う前後で、活動性以外の5つの因子(緊張、抑うつ、怒り、疲れ、情緒混乱)において行った後のほうが低い値を示した。

 緊張<T>はp<0.001、抑うつ<D>はp<0.05、怒り<A>はp<0.01、情緒混乱<C>はp<0.01で有意差がみられた。このことは、スロー・エクササイズをすることで、POMSの中での負の因子が正の方向へと移行しつつあることを示している。つまり、スロー・エクササイズは緊張でがちがちに硬直した身体(ファスト・ボディ)をリラックスさせ、日常のストレスやいらいらを和ませ、精神安定を導く効果があることが、示唆されたといえる。

 ただ、他の4因子に比べて活動性因子と疲労因子に関しては有意差が見られなかったことが意外だった。ヨガをすることで、活動性が上がり、物事に対して前向きになれると予想したのだが、やはりリラックス効果のほうが強く出たようだ。金光はカチャーシーという速いテンポの琉球舞踊についての研究において、踊ることが踊り手のエネルギーを賦活し、気分を高揚させる、と述べている。牛島らも、有酸素運動(エアロビクスなど)をすることにより活動性の増大が見られたと報告している。これらの報告はこの研究と類似している。この忙しい今の時代を生きるのに、リラックスは当然必要だが、ある程度の活動性が無いとポジティブになれず、時代に飲み込まれてしまう。スロー・エクササイズは、これまでの報告にある有酸素運動やリズミカルな音楽を伴うダンスとは異なり、前向きな気持ちを促すというよりは、癒しの効果を強く持ち合わせているといえる。このことは、スロー・エクササイズには今までのエクササイズとは違う新しい利用価値があるということを示しているのかもしれない。

 ヨガを行うことによりまた、主観的な効果として挙がっていた「疲れがとれる」についても、有意差は表れなかった。これは、ヨガの経験者と初心者で、ヨガの正しい方法により近づいていたかによる差が現れたからではないかと推測される。

 そして、対象者が行っている11のエクササイズを3つのスロー・エクササイズ(ヨガ、ピラーティス、太極拳)と8つのハード・エクササイズ(フラダンス、静的ストレッチ、クラシックバレエ、ジャズダンス、タップダンス、ダンベル体操、ウォーキング、エアロビクス)に分けて、日常生活にゆとりを感じているかという質問と掛け合わせて比較したところ、その差ははっきりと現れ、スロー・エクササイズ群のほうが、日常生活にゆとりを感じている割合が高いことが判明した(図5)。

図5
エクササイズとゆとりの関係(図5)

 これらのことを総合して、スロー・エクササイズは現代社会を生きる私達にとって、その生活を内面的に豊かにしてくれる可能性を持っているといえる。

以上

《論文について》

  • この論文はスロー・エクササイズに関する論文のうち、ヨガに関する部分を抄録したものです。太極拳など、他の項目に関する部分は対比する上で必要と思われる場合を除いて、原則として省略しました。
  • 用語「ヨガ」は著者の同意を得て「ヨーガ」より改めました。また「スロー・エクササイズ」のように、中央に読点を加えました(スローエクササイズ)。
  • 掲載に際しては、横浜国立大学教育人間科学部・蝶間林利男教授にご協力いただきました。深く感謝申し上げます。
    なお、この調査には国際ヨガ協会・東京西支部砧学園(永瀬晴美学園長)が関与しました。

NPO法人国際ヨガ協会・事務局

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