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谷村 英司
リカさんから日本でトレーニングコースのスクールを開校することを薦められ考えています。トレーニングコースというのは所謂AT教師を養成するための学校ですが、今、流行の講義を何回か受けて高いお金を払えば教師の免許がもらえるという安易なものと訳が違います。STAT(Society of Teachers of Alexander Technique)というロンドンに本部がある協会の基準は一日4時間,週に4日、それを9ヶ月、1年でトータル535時間、3年で1600時間のトレーニングを積むというものです。
これは生徒はもちろん大変ですが、それ以上に教師の側では大変なものです。お金儲けを考えていてはとてもじゃないけどできないものです。そんなわけで私個人としては、今のままで十分満足しているし、そんなことにチャレンジしようなんて思いもよりませんでした。そこへリカさんがやって来てあなたはそれで良いかもしれないけれど将来的に日本に質のいいアレクサンダー・テクニークを根付かせるためにはスクールのセンターを作ることはとても重要なことだし、そのためなら私も喜んでお手伝いさせていただくとまで言われてそのことを考えずにはおれなくなっています。
かつて生徒だった私の経験によれば、これは必ずしも将来AT教師になろうというものではなくて、自己をさらに深く掘り下げ、向上させるためのコースでした。長い一生のうちのほんの3年間自分が良いと思うものに打ち込んでやろうという思いからこのトレーニングを受けました。そしてそれは悔いのないものでした。ですからこういった機会にそういうトレーニングをやってみたいと思うほどの情熱をお持ちの方は私に遠慮なく声をかけてください。というのも、こればかりはいくら私がやる気になっても生徒がいなければ成立しないことですから。そういったひとたちが自然に集まり、無理のない形にできればと思っています。
今のところ考えているのは、私の地元である奈良,研究会がある東京、大分で、生徒は4人から5人まででやってみたいと思います。教師は私の他に中白順子さん,太田さとさんにもし、この計画が実行できそうな時には協力をお願いしてあります。以下は私のこの決心に対するリカさんの返事です。
I would like to congratulate you warmly on your decision to establish STAT oriented AT schools in Japan.
あなたが日本でSTAT基準のAT学校を始める決断をされたことを心からお祝いしたいわ。
I am confident that you are fully capable of undertaking this exciting and serious task and that your associate teachers would be of great help, especially Junko Nakashiro whom I found to be very capable and understanding.
あなたはこのエキサイティングで真剣な使命をまっとうできるのは間違いないし、仲間の教師たち、とくに有能で理解ある中白順子がおおいに助けてくれるでしょう。
I think that the general plan that you have outlined is very good, and that eventually you will receive the STAT recognition and acceptance.
あなたの基本計画はとてもよくて、いずれSTATが認め、受け入れると思うわ。 |


谷村 英司
突拍子もないタイトルから始めてしまいましたが、これはどういうことかと言うと前々回のインナームーヴで発表したアレクサンダー・テクニークのトレーニングコースのことに関係があります。そもそもこのトレーニングコースの話しがでて来たのは今年の5月に招いたリカ・コーエンさんとのご縁がその始まりでした。その時に以前にも話しましたが日本に質のいいアレクサンダー・テクニークのセンターを設立することは将来の日本にとって大変重要なことであることを私に切々と話されその話し振りに心を動かされました。
今から考えてみると私が将来的にトレーニングコースをやろうとも思わなかった原因はふたつありました。ひとつは私自身が大変責任の重いことになりそんな大変なことをするよりもお手軽な範囲で生徒を教えていけばそれでいいという思いがありました。ふたつ目は私と同じように生徒の側もお手軽な学びごととして学びに来ているのだからトレーニングコースなんて大変なことにチャレンジしてみようと思う人なんてまずいないだろうという思い込みからでした。この私の思い込みは、長年私がこの仕事をガンコなまでに続けてきた経験から来るもので,多くの人は素晴らしい仕事をされているとか深いものだとか賛辞はもらえるものの自分からそれに深くかかわっていこうとする人はほんのわずかの人だったからです。それで世間はファーストフードのようなお手軽な学びを求めているのであって深く、地道な学びを求めてなどいないと心のどこかで思っていました。勿論ファーストフードだって世の中に役に立っているし馬鹿にしたものではないはずです。だから私はいつの間にかその路線でいくようになっていました。
ところがいざトレーニングコースのふたを開けてみるとこの私の予想は見事に裏切られました。長年淡々と続けてきた関西、関東,大分の研究会の中から次々と参加したいと手を上げる人達が出てきたのです。これが最初のクレージーな人達というタイトルになったわけです。ですからこれは決して本当にクレージーだとい言っているのではなく、これまでの私の常識的な思い込みから考えるとクレージーなことだと言いたかったのです。そして見る見るうちに当初の定員に達しました。これには本当に驚いています。一時的な感情から決めたのではないかという心配から反対にこちらから「これはお金も時間もかかりますよ。もう少しじっくりよく考えてから決めてください」と言わなければならないくらいでした。
でもこれは私にとって内心嬉しい誤算でした。それは単に生徒がたくさん集まったから嬉しいということではありません。生徒がたくさん集まって喜ぶ時代は過ぎました。その空しさを経験したからです。私にとって大切なことはその中身です。中身とはアレクサンダー・テクニークとは如何なるもので,その中でも私自身が探求したい方向を十分理解した上でトレーニングコースに参加することを決意していただいているところです。このことによって先ほど言った世間はファーストフードのようなお手軽な学びを求めているのであって深く、地道な学びを求めてなどいないと言って、世間をシャに構えて見ていた自分が変わり始めたのです。それは自分自身の奥の何かが解け始めた感じでもあります。世の中はそんなに捨てたものじゃなかったのです。そのことを本当に“身を持って”教えたくれた皆さんに本当に感謝しています。クレージーなんて失礼なことを言って申し訳ございません。
私が“身を持って”と言ったのは、単なるお付き合いではトレーニングコースに参加することができないからです。お金や時間その他さまざまなことを犠牲にしてまでもやってみようと自ら決心しないと決められないことだからです。犠牲と言いましたが正確に言えば犠牲ではなく“選択”だと私は思っています。世の中には高価な服や宝石にはお金を出せても学びには出せないという人達がいます。また、学びよりもお金儲けを優先する人達もいます。つまりそれは学びよりも高価な服や宝石を、お金儲けを選択されたのです。そしてトレーニングコースに参加することを決意された人達はそういったものよりも学ぶことを選択されたのだと思います。その熱意と勇気が何よりも私にとっての喜びとなりました。
よく考えてみるとこのような展開は10年前このインナームーヴが発刊された頃から始まっていたのかもしれません。私にとってこの10年は短かったような長かったような説明のしようのない妙な気持ちですが、ただ言えることは一回一回を丁寧にその時の自分が感じていることを表現してきたつもりです。時には自分の中から何も出てこなくて無理やりひねり出しているような文章もありました。そしてこれから先、何も私の頭に浮かんでこなければどうしようと不安になることもありました。そんな経験を通してわかったことは、人間考えてばかりいないで失敗も含めて実際に何かやってみないと,一歩前に進んでみないと新しい展開は何も起こってこないものだということです。そういう意味で私にそのチャンスを与えてくれた国際ヨガ協会の松嶋会長には感謝しています。私は元来怠け者でこういう負荷を自分自身に与えないときっと何もしないでいたでしょう。
今回のトレーニングコースを開校する私の決心もこういった経験からの学びがあったからこそできたことかもしれません。参加してくださった人達が私の理解していることが本当に学ぶことができるだろうか? 一生を振り返って本当に学んでいた良かったと思えるだろうか? この先経済的にやっていけるのだろうか? 心配すればキリがありません。でもそんな不安を考えるよりもとにかくやってみてその時その時を誠実に自分のできることをやっていこうと思っています。そしてそのことが思わぬ新しい学びや展開を生まれることを私は信じています。
教師というのは教えるという立場ではありますが、実は生徒以上に生徒から多くを学んでいるものなのです。リカさんがワークショップで多くの学びをありがとうと私がお礼を言ったところ、「私の方こそあなたから多くを学んだわ。ありがとう!」と言われたことを思い出しました。これを機会に私にとって多くの学びがあることでしょう。そして私自身の更なるステップアップなることを期待しています。
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