アレクサンダー・テクニークの創始者であるフレデリック・マシアス・アレクサンダー(1869〜1955)は将来有望なシェークスピアの俳優でしたが、舞台で演技中に声がかすれ、しまいにはあえぎ声しかでなくなりました。そして、医師をはじめさまざまな治療師に相談しましたが、休息を勧められるだけで根本的な解決にはなりませんでした。
 そんなわけで、自分自身で何とかするしかありませんでした。そこで彼はこんな仮説を立てました。「休んでいれば、声の調子がある程度回復するが、いったん声を出し始めるとだんだんと声が出なくなるということは、声を出そうとするその時の自分自身の心身の使い方に問題があるのではないか?」と。
 この仮説に基づく数年に及ぶ自己観察の結果「心身の協調作用と動作のための新しいアプローチ」を発見したのでした。それを実行するうちに声の問題だけでなく、彼の全般的な健康状態も驚くほど改善されていきました。その結果、このアプローチは自分自身だけのものではなく、われわれ人間の持っている普遍的な問題でもあるということがわかりました。
 そこで彼はこの方法を他の人たちにも教えることにし、教師養成コースを通じて指導者を育てました。今ではヨーロッパを中心にアメリカ、オーストラリアなど1000人近い教師が活躍し、STAT(Society of Teacher of Alexander Technique)やATI(Alexander Technique International)といった教師のための組織や組合ができています。国によってはこのテクニークに保健が適用されているところもあるそうです。それだけしっかりした社会的基盤の下で地道な活動がつづけられてきたということでしょう。
 ちなみに、F・M・アレクサンダーから直接指導を受けた著名人にジョージ・バーナード・ショーやオルダス・ハックスリー、哲学者であり教育者であるジョン・デューイなどがいます。
いったい何をするの?

 基本的にはマンツーマンでの30分〜40分のプライベートレッスンです。
 テーブルの上でリラックスして行うテーブル・ワークとより良いからだの流れを維持しながら立ち座りの動作をするチェアー・ワークとがあります。これらのワークの中で、教師の手の指導によって実体験を通して、より良い自分自身の使い方を学んでいきます。
 アレクサンダーが発見した「頭と首と背中のより良い協調作用」とはどういうものかを教師の手を通してからだで覚えて行くわけです。大まかに言うと一般的にほとんどの人は首を固くして、頭を前に、下にか後ろに下に引き吊りおろしているのです。その結果背中が短く、狭くなり、からだのすべての関節が圧迫を受けることになります。このように、「自己の一般的な使い方を最初にコントロールしている(プライマリー・コントロール)のは頭と首と背中とからだ各部の関係性」なのです。そこでこのテクニークでは「首を楽に、頭を前に、上に、背中は上下、左右に広がる」ということを教師の手を通して繰り返し繰り返し体験してもらい、理屈ではなくからだで学んでいく訳です。
 このことをベースとして、もうひとつ私の所では、教師の手を借りずに、自分自身を実験台として、自分自身で考えてゆくグループワークをやっています。このワークを通してどういうふうに自分自身をとらえていけばいいか、あるいは自宅で自習するにはどうすればいいかがわかってゆくわけです。
 以上のことを少しずつ学んでいくことによって、日常生活における自分自身の使い方が見直され、からだの動き、バランス、サポートがより自由に、楽になり、心身の柔軟性と調和を高めることになります。
 その結果として、慢性的な肩こりや腰痛、ストレスから来る疲労感や不快感、不安神経症などから解放されていきます。
 また、欧米では音楽家やダンサーなどパフォーマンスのプロあるいは学生など高く評価されており、大学のそれぞれの専門分野で基礎的トレーニングの一環として実践されています。